東京高等裁判所 昭和32年(う)748号 判決
被告人 安藤与市
〔抄 録〕
A弁護人の論旨第一点について。
原判決は罪となるべき事実として「被告人は昭和三十一年十一月十二日午後七時十五分頃東京都港区芝三島町一番地先より同都同区芝公園五号地の十二番地迄通称健ちやんより運搬方依頼を受けた婦人用スーツ二着を賍物たるの情を知り乍ら携帯運搬し」たと判示し、その証拠として証人内田弘美、同水谷チヨ子の原審公判廷における供述をあげているが、前記証拠だけでは健ちやんより運搬方依頼を受けた事実を認定することはできない。(健ちやんから運搬依頼を受けたことは被告人の原審公判廷における供述によつてこれを認め得ないものではないが、原判決はこの被告人の供述を証拠に引用してはいない。)所論はこの事から原判決の理由にくいちがいがあると主張するのである。
しかし賍物運搬罪にあつては被告人が運搬した物件が賍物であること及びその賍物であることの情を知りながらこれを運搬したことを判示すれば必要にしてかつ十分なものというべく、運搬依頼を受けた事実があるかどうか或いは又運搬方依頼をしたのが何人であるかとの事実について判示を必要とするものではない。原判示によれば、その賍物であることの判示につき措辞やや妥当を欠く嫌がないではないが、(この点に関しては更に佐藤弁護人の論旨第二点に対する判断参照)被告人が運搬した婦人用スーツ二着が賍物であること及びその賍物たる情を知り乍ら携帯運搬した事実を判示していると認められるのであつて、「通称健ちやんより運搬方依頼を受けた」事実は罪となるべき事実ではなく、これを判示すべき必要のないところであり、従つて原判決引用の証拠中に通称健ちやんから運搬依頼を受けたとの事実を認めるに足るべきものが存在しないとしても所論のように理由のくいちがいがあるとはいえない。それ故に論旨はその理由がない。
(加納 吉田作 山岸)